シップチェイス傍受録


 Act.1
「アキトさん……」
「やあ、ルリちゃん」
「貴方が苦しんでいることくらいはわかってるつもりです。ですが……」
「あれ、ルリちゃん声がいつもと違うよ」
「え、そうですか? 普段と変わらないと思うんですけど……」
「もしかして風邪引いてる? 具合悪くない?」
「いえ、平気なんですけど……そんなに違いますか?」
「うん。なんかちょっと掠れてるみたいな」
「通信状態が悪いんでしょうかね?」
「それならいいけど。最近の風邪は悪質みたいだから気をつけてね」
「はい。アキトさんも体を大事にしてくださいね」
「はは、肝に銘じておくよ。じゃあ、またね」
「ええ、お元気で」
 ──通信終了──

「何か忘れてるような気がするんですけど」

□□□

 Act.2
「アキトさん、この間は誤魔化しましたね?」
「ああ。まさか通用するとは思わなかったが。やっぱり本当に具合悪かったのかい?」
「まあ、艦長って職も結構心労が溜まるものでして」
「ナデシコだからな」
「ナデシコじゃあ仕方ないですよね」
「ホウメイさんが薬膳にも詳しいから、今度行ってみるといい。人生相談にもうってつけだし」
「そうですね、そうします」
「ああ、それと……あ、コラ。何やってんだラピス。やめろ、お前自分のがあるだろうが」
「どうしたんですか?」
「いや、ラピスの奴が……待て! 麦茶返せ、変なの混ぜるな!」
「取り込み中みたいですね」
「ああ、ゴメンねルリちゃん。また後で……駄目だって! 色変わってるから!」
 ──通信終了──

「麦茶に医薬品を混ぜても薬膳にはなりませんよ、ラピスラズリさん」

□□□

 Act.3
「今度こそ話を聞いてもらいますよ? ……って、なんで犬を抱いてるんですか」
「すまないが、俺は帰るつもりなんかない」
「待ってください。流さないでください。なんですかその犬」
「引き取り手を捜している……君に頼んでもいいかい?」
「一体どういう経緯で犬を拾ったのかは知りませんが、ちゃんと飼うつもりがないならそもそも……」
「ボソンジャンプで突然現れた。実はこいつ俺が火星にいた時世話してたことがあって……」
「火星のナノマシンは犬までA級ジャンパーにするんですか?」
「多分何かの拍子でCCと接触したんだろう。俺のこと憶えててくれたんだなぁ……」
「しみじみしないでください」
「信じられないのも無理はない。だが事実なんだ」
「いえ、ですから」
「ほーら、この子。この子の近くな。よしよし、いいぞー。ほーら行ってこーい!」
「ちょっと待ってください、いきなり何を……ひゃ、ホントに来た! あ、ちょっと、どうしましょうこの子」
 ──通信終了──

「あなたの名前は今日からチッチョリーナですよ」

□□□

 Act.4
「真面目にやりましょう」
「真面目に? わかった」
「コホン。……アキトさん、ユリカさんも待っています。せめて顔を出すくらいしたらどうですか」
「罪を償えというのならそうしてもいいがな、ホシノ少佐」
「あ、なんですかいきなり。そんな他人行儀な」
「いや、真面目にやれって言ったのは君じゃないか」
「じゃあ不真面目でいいです。私は別に軍人として投降を呼びかけるつもりじゃないんですから」
「なに? こらルリちゃん。ちゃんと自分の仕事には責任を持たなくちゃ駄目だ」
「はぁ」
「ただでさえルリちゃんはアイドル扱いで注目されやすいんだし、不用意な発言は慎まないと」
「いえ、その」
「この時代再就職なんて難しいんだし、部下まで除隊処分なんてことにさせないように……」
「……ごめんなさい」
 ──通信終了──

「ハーリー君、私の代わりに艦長やってみませんか」

□□□

 Act.5
「連続コロニー襲撃犯テンカワアキト、貴方は包囲されています。大人しく投降してください」
「フッ……俺にはボソンジャンプがあることを忘れたのか?」
「ジャンプには詳細なイメージが必要なことは調べがついています。何の対策もとっていないとお思いですか?」
「なッ、これは一体……」
「IFS保有者の神経に直接働きかける、妨害用のジャマーです。もう一度言います。貴方に逃げ道はありません」
「馬鹿な、このAKITOが、このAKITOがァァァッ!」
「貴方は私を怒らせた……」

「はいカットー。うん、よくなってきたよルリちゃん」
「まあ、台本通りにやるだけですし」
「でも最初のうちは台詞が棒読みだったし、声も小さかったから進歩してるよ」
「元々こういうのは向いてないんですよ……」
「はは、まあともかくお疲れー」
「お疲れ様でした」
 ──通信終了──

「そういえば、私はなんで学生服着てるんでしょう?」

□□□

 Act.6
「……悪い夢を見ていた気がします」
「夢だと思いたければ、そうすればいい」
「……もう迷いません。アキトさん、貴方を捕まえます」
「ふむ、なら俺も問答無用で逃げるとするか。ラピス、ジャンプの用意を」
「させません! ハーリー君、ディストーションフィールドを全開にしつつユーチャリスに接触……艦内にボース粒子増大? また犬ですか?」
「君の知る世界がどれほど不安定なのか、教えてやろう……」
「……本ですか。えーと、『眠らずの撫子 サブ×ハーリー』………………、──!?」
「ジャンプ」
 ──通信終了──

「二人とも……大人なんですね……私よりも」

□□□

 Act.7
「ユーチャリスの動きが鈍い……アキトさん、そこにラピスラズリさんはいますか?」
「いや、あいつはネルガルに置いてきた。復讐が終わった以上、俺に付き合わせるわけにもいかんからな……」
「オペレーターを欠いたまま、ナデシコCから逃げられるとでも?」
「やろうと思えば、できなくもないさ」
「何か策があるようですね……ですが、こちらも怯むわけにはいきません」
「ちょっと待て……ネルガルから通信が来た」

『おーいテンカワ君、ラピス君をどうにかしてくれないかな。
 この子、さっきから執拗に僕の脛を蹴るんだよ。しかも無言で。大して痛くはないけどさ、いい加減怖くなってきた。
 あ、ちょっと、何やってんの……ムネタケシール? どこで手に入れるのそんなの……ああ! 机に張らないで! おぞましいよ!
 うわ、剥がれない! ってこら、やめるんだ! そんな捨てても勝手に戻ってきそうな人形飾ったら……!』

「あーすまないアカツキに呼ばれてるから俺一旦ネルガルに戻るわコラコララピスおいたしちゃ駄目だぞー」
「え、ちょっと……アキトさーん!」
 ──通信終了──

「……彼女の行動が策だったのか、そうでないのか……それが問題です」

□□□

 Act.8
「今度こそ追い詰めました。もう逃げられませんよ」
「ふん……なかなかやるようだ」
「嫌だと言っても連れて帰りますから、覚悟してください」
「えー、当方と致しましてもこの度の事態に対する考えは決して市民の皆々様方と異なるものではないということをここにあらかじめ暫定的に申し上げておきます」
「……惑わされませんよ」
「しかしながら今現在の世論の方向性からして民間企業と宇宙軍との意識の剥離が問題点として挙げられることは疑いようがないと聞き及んでおりまして」
「……誰からですか」
「つきましてはまず双方が持つ視野の相違点における摩擦とそれにより起こりうる不満点を列挙して議会に提出して頂きたいという思いが少なからずございます」
「……証言は正確にお願いします」
「措置が済み次第当方は可及的速やかかつ決して性急すぎず常に民意に沿うことを念頭に置いた上で正確さを何よりも重んじながらも結論を考慮し始めうる下地が整うことになり」
「……いつ結論を下すのか!」
「また別の側面から見ても火星圏の歴史を紐解いた上での見解を熟慮するに足る状況を心待ちにしているであろう方々の期待を裏切ることなくこちらも時間を稼げます」
「本音が出た! ハーリー君、録音はちゃんとしてありますね!?」
「よって当方は現状を鑑みるにつき未だ結論を出すに相応しい状況ではない可能性を追求しつつ遅くともこの先十年を目途に当面は家庭菜園の栽培に心血を注ぎます」
 ──通信終了──

「……記憶にございません」

□□□

 Act.9
「なんだか疲れてきたような気がしなくもありません」
「それはいけない。しばらく休養をとったほうがよくないか? ルリちゃんなら有給くらい残してるだろう?」
「はあ、それはその通りなんですけど」
「あ、じゃあ今度一緒にどこか遊びに行こうか」
「へ? あの、えーと。いいんですか?」
「まあなんていうか、こっちもそろそろ息抜きが欲しくてねー」
「そういうことならお言葉に甘えましょうか……あ、でも大丈夫なんですか? ほら、指名手配とか」
「ブラックサレナの中の人までは見られてないしねえ。ラピスも連れて行くことになるけど、いいかな?」
「ええ、構いませんよ。一度お話してみたかったですし」
「ん……なんだ? ふんふん。おお、そうか……ラピスも会ってみたいってさ」
「じゃあ、よろしくお願いします」
「うん。都合のつく時にまた連絡するから」
「はい。……一応言っときますけど、バイザーはともかくマントはどうにかしてきてくださいよ?」
「ははは」
 ──通信終了──

「──はッ!? ひょっとして、デートですかこれ」

□□□

 Act.10
「……また騙されたんだと思ってました……」
「あの格好で電車にも乗った俺が、今更躊躇うこともない」
「えーと、どうしましょう。一応今はナデシコCに私しかいないんですけど」
「君もよくやるなあ。こっちも相変わらずだけどな。ユーチャリスに乗ってみるかい?」
「でもここを無人にするわけには……」
「ならこのままのんびり宇宙遊泳してようか。それとも連結できるかな」
「できなくもないと思います。でもいいですねユーチャリス。なんか外観が美しくて」
「お、わかる? 居住区は狭いんだけどさ、その分スマートでいいよね」
「ですねえ。ナデシコは基本的に変な形なのに。ちょっと羨ましいです」
「ユーチャリスとサレナには独特の美学が……おっと、上手くいったかな? じゃあこれから迎えにいくよ」
「あ、はい。私もすぐ準備します」
 ──通信終了──

「この炬燵はアキトさんの趣味ですか? ……あ、蜜柑甘くて美味しい」

 これもまあ、思いついたら追加。

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